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風雅、舞い - 第五章 変化 (1)
 洋風の豪華な部屋は、煙草の臭いが立ちこめていた。煙草を吸わない行雄はそれを苦痛に感じていたが、これから始まるプレゼンテーションを考えればそのような痛みは吹き飛ぶほど軽いものだった。
 会議はすでに始まり、予定調和の言葉がゆっくりと交わされていた。
「マスコミは情報を求めている。もうそろそろ、何らかの形で公開すべきではないのかね?」
「その……<闇>ですか、それが降り立つ場所を隠しておけば、それほど混乱は起きないと思いますが」
「やはり、この計画は中止すべきでしょう」
「あなたは」
「いや、やはり時期尚早だ。あまりにも諸外国に与える影響が」
「それが本来の目的ではないのですか? 韓国、台湾、そして中国。東アジアの中心となるためには、力を示さねばならないでしょう」
「そのためには、アメリカの影を消し去らなくてはならない」
「安保を否定すると?」
「否定はしない。だが、特に中国がアメリカと同等の力を持つことは想像に容易い。そうなったとき、日本が間を取り持てられればよいのだ」
「核を持たないのに……それほどの影響力を得られるというのか?」
「核兵器はもちろん、科学、生物兵器、そして地雷などのような無差別大量殺戮兵器ではない、という点が重要です」
「そうだ、だからこそ東アジアに対する反日感情をそれほど駆り立てることもない」
「それはどうですかな、どんな兵器であれ、驚異となりうるのであれば」
「だが、世代は変わった。各国とも、ゲームのような経済戦争に夢想している。このLWシリーズとて、単なる飾りになるだろう」
「では逆に、そのLWとかいうのは、どれほどのものなのか?」
「そうだ、これは一種のショック療法のようなものだ。なら、ショックは大きければ大きいほどいい」
「なんでも、先日の実戦演習では畑をひとつ駄目にしたそうじゃないか」
「畑を駄目にしたのは解る。だが、納屋や家まで崩したとは……何か事故でも起きたのかね、重機が倒れたとか」
「そうだ、無駄な出費であれば、その分予算を削減しなければなるまい」
「そこのところ、どうなのかね、石和君」
 全員の視線が石和に集まる。
「田中君、頼む」
 脇にいる行雄に目配せし、行雄は立ち上がる。
「ではこれより、先日の第三回実戦演習の模様を見ていただきましょう。我らが至宝の傑作、LWシリーズとAPシリーズの力を……」
「APシリーズ?」
 証明が落ち、モニターが点ったとき、行雄の顔は別人かと思えるものになっていた。
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