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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (1)
「あれ、舞さん出かけてるんですか?」
 更衣室で体を拭く俊雄が、すぐ外にいるリシュネに訊く。
「ええ、今ここにはいないわ。で、どうなの?」
「どうなのって……ずかずかと乗り込んできていきなりその質問はないんじゃないかなぁ」
 フィオは空のカプセルに向かったまま、背中に立つリシュネに答える。手はコンソールを叩き続け、たった3行のインジケーターを英文が流れていく。
「APになるにはまだ時間が掛かるわよ。今は下準備の段階、体全体に触媒を流して魔法を植え付けやすくしているから」
「面倒な方法ね」
「あんた達と違って俊雄には適性がないし、私に言わせれば成長促進は危険極まりない方法だわ」
「でもそうも言ってられないの」
 APと泉を継ぐ者、あわせても戦力がリシュネひとりしかいない現状。
「舞と彼がいない、雅樹もいない、はっきり言って今攻められたらひとたまりもない」
「立ってる者は親でも使えってことわざがあるらしいけど、戦闘訓練を受けていなくてもAPならいいっていう考えはどうなの?」
「きれい事はいいの、現実を見て」
「今攻められたらここは落ちる、なら放棄することを優先すべじゃないの? 是が非でもここを守るなんて、現実を見てないのはあんたの方よ」
 べき、と何かが壊れる音がする。フィオはそれでも振り向かない、振り向きたくない。
「まぁまぁ、ケンカはやめましょうよ」
 一番空気にそぐわない発言をしつつ俊雄がカーテンを開ける。
「……まだみたいね。あんたに能力があったら、真っ先に舞を追い掛けるだろうし」
「そんなことありませんよ。今だって、僕は舞さんを追い掛けているんですから」
「そんなとんちみたいな話聞きに来たんじゃない。……こんなとこにいるより、雅樹を捜した方がいいかもね」
「あ、舞さんはどこに?」
 部屋を出ようとするリシュネは、俊雄に一瞥して答える。
「……彼の故郷、よ」
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